取引DPF消費者保護法と同施行令(案)~クリエータの開示請求リスク~

消費者庁消費者政策課は17日、「取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律施行令(案)等に関する意見募集について」との題目でパブリックコメントを実施した。

取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律(以下、取引DPF消費者保護法)は取引DPFを利用する消費者の利益を保護することを目的とした法律として第204回国会の政府提出法案 1 各省庁が起案し、内閣総理大臣の名前で国会に提出される法案 として成立しており、今回のパブリックコメント2 政府機関が法案等を制定する際に広く国民から意見を求める制度はその施行令の制定に合わせたものとなる。

立法の背景と内容

デジタル・プラットフォーム企業が介在する消費者取引における環境整備等に関する検討会報告書によると、参入障壁の低下によって悪質な事業者と消費者のトラブルが増加していることが新規立法必要性の根拠となっている。

同法は取引DPF提供者の「努力義務」として、

① 販売業者と消費者との間の円滑な連絡を可能とする措置
② 販売条件等の表示に関し苦情の申出を受けた場合における必要な調査等の実施
③ 販売業者に対し必要に応じ身元確認のための情報提供を求める

の3点を制定しており、同法1条では「販売業者」とは法人だけでなくいわゆるフリーランス、個人事業主なども対象になるとされている。

取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律案 概要

取引DPF消費者保護法とクリエータの匿名性

同法第3条第3項では、取引DPF提供者が行う措置に関してその適切かつ有効な実施を図るために必要な事項を指針として定めるものとされており、指針案では「取引DPF提供者に販売業者等が住所や氏名などの情報を提供すること」に関する取り組みの例がベストプラクティス 3 素晴らしい取り組みのこと として紹介されている。

上記の取り組みは既に多くのDPFで自主的に、または特定商取引法に基づいて行われているものであるため特段クリエータの匿名性が脅かされるものではないと考えられるが、同法第5条には以下のような規定が存在する。

(販売業者等情報の開示請求)
第五条 取引デジタルプラットフォームを利用する消費者は、当該取引デジタルプラットフォームを利用して行われる通信販売に係る販売業者等との間の売買契約又は役務提供契約に係る自己の債権(金銭の支払を目的とし、かつ、その額が内閣府令で定める額を超えるものに限る。)を行使するために、当該販売業者等の氏名又は名称、住所その他の当該債権の行使に必要な販売業者等に関する情報として内閣府令で定めるもの(以下この項及び次項において「販売業者等情報」という。)の確認を必要とする場合に限り、当該取引デジタルプラットフォームを提供する取引デジタルプラットフォーム提供者に対し、当該取引デジタルプラットフォーム提供者が保有する当該販売業者等に係る販売業者等情報の開示を請求することができる。ただし、当該消費者が、当該販売業者等情報を用いて当該販売業者等の信用を毀損する目的その他の不正の目的で当該請求を行う場合は、この限りでない。

すなわち、通常の発信者情報開示請求とは異なる開示請求が可能となる規定が存在している。なお、「内閣府令で定める額」とは取引DPF消費者保護法施行規則案第4条によると1万円とされており、開示請求の前提条件は非常に低い。

当然ながら、不当な開示請求を防ぐために「当該販売業者等の信用を毀損する目的その他の不正の目的で当該請求を行う場合は、この限りでない。」との規定や通常の発信者情報開示請求 4 プロバイダ責任制限法第4条に基づく情報開示請求のこと。情報発信者の住所や氏名の開示を求める手続き のように「開示するかどうかについて当該販売業者等の意見を聴かなければならない。(同法第5条3項)」との規定が存在するが、発信者情報開示請求で得られた個人情報がインターネット上で公開され開示対象者が多大な影響を受ける事例は後を絶っておらず、特に開示請求ハードルの低い取引DPF消費者保護法及び同施行規則等が同様の弊害をもたらす可能性は否定できない。

少なくとも、開示請求で得られた情報の目的外利用を制限する規定や内閣府令で定める額を1万円から引き上げるべきであろう。

また、特に匿名クリエータの多い取引プラットフォーム、BOOTHやDLsite等のクリエータの保護の観点から取引DPFの努力義務の内容を定める指針にベストプラクティスとして、プラットフォームの実情に合わせた取り組みを記述するよう求める必要があるのではないだろうか。このままではクリエータの匿名性がスラップ開示請求によって脅かさる可能性を否定できないだろう。

消費者庁消費者政策課のパブリックコメント「取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律施行令(案)等に関する意見募集について」は2022年1月17日23時59分まで意見提出が可能となっている。

参考文献

取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律施行令(案)等に関する意見募集について
取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律案 概要
施行規則案
法律第三十二号(令三・五・一〇)取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律

※当記事は所属組織の意見を代表するものでありません。また、ご自身が現実に遭遇した消費者問題等については法律関連の専門家にご相談ください。

note版記事:
https://note.com/notes/n3265c1d44c4c/

  • 1
    各省庁が起案し、内閣総理大臣の名前で国会に提出される法案
  • 2
    政府機関が法案等を制定する際に広く国民から意見を求める制度
  • 3
    素晴らしい取り組みのこと
  • 4
    プロバイダ責任制限法第4条に基づく情報開示請求のこと。情報発信者の住所や氏名の開示を求める手続き
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長島研究室

帝京大学長島光一研究室では、民事訴訟法を専門とし、医療分野・環境分野・情報分野の議論も実施しております。 ここ数年は、自分の好きなことを法と絡めて紹介する「趣味と法」・グループを作って行う「民事模擬裁判」を実施しております。

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